主人公があまりにもクソ野郎で…。アニメ「ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン」レビュー!
2017/06/07
放送時期 | 2016年7月~2016年9月 |
原作 | いみぎむる |
公式HP | http://www.tbs.co.jp/anime/konobi/ |
帝国の少年イクタ・ソロークは、幼馴染の少女ヤトリと高等士官試験に向けて故郷を出発する。
だがその途中、嵐によって船が沈没。二人を含む受験生たちは、何故か船に密航していた帝国第三皇女のシャミーユとともに、敵国の中に流れ着いてしまうのだった。
評価得点:★★★☆☆ 71点(佳作)
※ネタバレを含みません
とても面白い戦記系アニメだが…
本作について端的に批評するとすれば、
「好きな人はとても好き」
な作品だと思う。
例えば数十年前のSF小説で、不敗の魔術師の知略に胸躍ったような世代は、間違いなく刺さる。
……ええ、私は好きでしたよこの作品ww
世界観も軍事的な条件もいまいち判然としないのだが、とにかく主人公イクタが練り上げる作戦が見事なまでにサクサクと決まる。
本作の最大のウリは、このイクタの作戦が凡人たちを圧倒するある種の無双感だろう。
そう、とにかく無双だ。
彼の作戦は見事に相手の心理を読み切り、ズバズバと敵の裏をかく。
そこで登場するチート剣士のヤトリさんもまた無双なので、寡兵で敵軍を撃退するという、戦記ものの王道な展開が次々と決まる。これは気持ちいい。
それでいて、作戦には破綻がない。
展開される作戦はトリッキーさこそ薄いものの基本的には合理的であり、「なるほど!」という納得感も少なくない。
多くのエセ大河ロマンや偽戦記アニメに見られるような、ラッキースケベ作戦は本作には基本的に存在しないと言っていい。
その点、安心して見れる作品だと言っていいだろう。
ただし、何だかあまりにサクサクと作戦が決まりすぎて、違和感があるのも事実だ。
周囲に凡将愚将をちりばめながら主人公を持ち上げる演出は常套手段であるし、真偽を問わずどの戦記系作品でもやっていることだ。
なのになぜだろう、本作はとても「あざとい」感じを受けるのだ。
恐らくそれは、エピソードの問題よりも、主人公の性格的な部分に原因があるのではないだろうか。
イクタは自己顕示欲が強過ぎる
イクタ・ソロークとは何者であるのか?
これが本作に対して最後まで感じていた、私の違和感だ。
直接的な戦闘力はないにしても、天才的な視野の広さ、柔軟かつ合理的な思考を持った彼は、まさしく超人といっていい。
ただ、これだけ能力的に卓絶した人物を描く際に、決まって発生する問題が一つある。
視聴者が主人公に感情移入できないという点だ。
一時期、こういった超人系主人公は感情移入が難しいとして、凡人を主人公にした作品が続々と公開された時期があったようにも思う。(シャナが流行ったあたりのライトノベルかな~)
ただ、そもそも物語とは本来、その盤上を踊る超人に恋い焦がれるものだ。
感情移入し難いから超人を描かないのではなく、超人を如何に魅せるか、どうやって視聴者に感情移入させるかを考える方が、物語の方法論としては正しいと私は思う。
そういう意味で本作の主人公であるイクタは、物語の主人公にふさわしい超人である。
そして同時に、見事なまでに視聴者に感情移入させるのに失敗した超人だとも思う。
彼については、「俗人を描こうとして失敗している」感が非常に強い。
昼寝を愛し、労働を嫌う。
女遊びを好み、綺麗な女性を見ると必ず話しかけてしまう。
こういった非常に俗人的な要素は、しかし何故だろう、本作における彼のキャラクター形成には全く活かされていないのである。
問題なのは彼が、目の前の戦闘(トラブル)に対してあまりにも戦意旺盛である点だ。
自己顕示欲の強さと言い換えてもいいかもしれない。
彼の描写に伺われる「俗人っぽさ」が、戦闘シーンでの彼の旺盛な攻撃性・功名心とあまりにもアンマッチなのである。
具体的なエピソードはネタバレになるので避けるが、作中を通して彼からは「ああ、コイツ自分好きなんだな」と思わせる要素が多い。
彼の立ち振る舞いには「やることやって、ダメだったら仕方がない」的な凡人の極致的な割り切りではなくて、「俺がダメなら誰もダメ」的な不遜さが感じられるのだ。
これが、「仕方なく軍人(騎士)になってしまった」という状況に対しての行動だから、より一層彼のキャラクター性はあやふやになっている。
せめて戦争や軍人を嫌悪しているエピソードがあれば良かったのだが、そういうシーンはせいぜい、幼女につかみかかるようなシーンでしか再現されていないのである(悪意のある言い方でスマソw)
手厳しく言えば、キャラクター描写が破綻している、といわれても仕方がないと思う。
もっと言えば、この「俗人さ」と「戦闘能力の高さ」という矛盾を葛藤として描けなかった、シナリオの力不足だろう。(それを見事に描いたのが、某SFの某魔術師なわけである)
……まあ、話数の上でも色々と詰め込んだ感がありありだったので、人間描写にまで至らなかったというのが本音なのかもしれないが。
イクタ改善計画を練ってみる
では、このイクタ・ソローク先生は、どのように描けばよかったのだろう。
一つ提案するとすれば、「もっと俗っぽく」することだ。
例えば、趣味を「女風呂覗き」にすればよいと思う。
各話必ず1回、イクタが女風呂をのぞこうとするシーンを入れる。
これは男性視聴者のニーズ、そして昨今のアニメ作品・ラノベ作品に求められる低俗性を十分に満たす、「毎回がサービス回」という夢の二次元作品である。
そしてイクタは、必ずその覗きに失敗して制裁を受けるのだ。
……上記の例はあくまでも「例えば」である。
だが、ナンパして成功して女抱きまくってる上にあんな性格の主人公など、穏健に表現するとしても「クソ野郎」だ。
誰だって好きになれないに決まってる。
しかし、一方でイクタが上記のような「わかりやすいクソ野郎」だったらどうだろう?
感情移入は明らかに優しくなり、物語もウェットに富む。
「欠点」とは即ち「愛嬌」であり、それこそがキャラクターの魅力である。
能力的に非がないのなら、性格的に魅力を「わかりやすく」用意するべきではないだろうか。
何故、一昔前の少年マンガの主人公にドスケベ野郎が多かったのか、という話である(笑)
物語の出来の割に、キャラクターが浅い
イクタを例に挙げたが、キャラクターの描写は物語全般を通しての共通の欠点だ。
描かれるキャラクターたちは、綺麗に破綻なくまとめられてはいるものの、深堀りする要素に薄い。
イクタのような矛盾を見せることこそないが、心の奥底から絞り出されるようなエピソードは皆無で、脚本を淡々とこなしているだけの印象が強い。
もちろん、原作の物語が完結していない点や話数等は考慮されてしかるべき要素ではあるだろうが、このアニメ作品を通してみると、キャラクターの内情に踏み込んだ要素があまりにも少ないのだ。
戦争における戦術・戦略のみを描くにとどまり、そこを生きるキャラクターたちに踏み込み切れていないのである。
ただ、これは言ってみれば贅沢な悩みかもしれない。
総じて言えば物語の完成度は高い。
良作、名作といった称揚の域には及ばないものの、好きな人は安心してみることができる佳作と呼べるだろう。
キャラクターの深みをきちんと描ければ、よりハマり所の深い名作たりえたかもしれないだけに、残念ではあるが……。
ちなみに、あの精霊たちって物語上意味があるのでしょうか?
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セトシン

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